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次世代育成をめぐって

第4回 (2018年2月)

こんにちは。ダイバーシティ推進センター非常勤講師の矢吹です。

次世代育成をめぐってお話ししてきたエリクソンの理論、第5段階「青年期」の次は第6段階「若い成人期」、そしていよいよ次世代育成が直接のテーマになる第7段階「成人期/壮年期」に入っていきます。

第6段階の若い成人期の発達課題は対人的な「親密性」です。親密性とは、異性との親密性だけでなく、あらゆる他人との親密性、ひいては自分自身との親密性を指しています。

その第6段階を経て、第7段階の成人期では「ジェネラティヴィティ」が発達課題です。「ジェネラティヴィティ」とは、エリクソンによる造語で、「生殖性」「世代性」「生産性」などと訳されてきた用語です。

生殖性と言いますと、子どもを産み育てること、と理解しやすいものです。しかしエリクソンはこのジェネラティヴィティという用語において、子どもを産み育てることももちろん含んでいますが、もっと広い意味であることを解説しています。すなわち、「次の世代を確立し、導くことへの関心」であり、創造的な営み、何かを次世代に伝えるという、まさに次世代育成を指して、この用語を用いています。一方で、単に子どもがいるというだけでは、この課題を達成したことにはならないことも述べています。

私自身は長い独身時代、子どもを持つこととは無縁だった時に、自分は心療内科臨床や精神療法を通して、間接的に子育てに関与しているのかなと感じていました。子育て中の人の仕事をサポートするのも間接的な次世代育成でしょう。次世代育成は子どもを直接産み育てること、社会の子育てをサポートすること、そして職業面でも直接間接に次世代を育てること、と多面に存在するのだと思います。

ちなみにエリクソンはこの時期の重要な関係の範囲として、「労働における分業と家庭内における分担」をあげています。次世代の健全な育成には、家庭内外を問わず幅広く周囲との連携分担が欠かせないということですね。

第3回(2018年1月)

  あけましておめでとうございます。ダイバーシティ推進センター非常勤講師の矢吹です。エリクソンのライフサイクル論の続きをお話していきましょう。第2段階は「幼児初期」、トイレットトレーニングの時期にあたり自分の身体機能を文化の要請に合わせてコントロールする「自律」が発達課題の時期です。次いで「自主性」が発達課題の第3段階「遊戯期」、「勤勉」が発達課題の第4段階「学齢期」と続きます(訳語は各種あり)。次世代育成との関連で、今回はそのあとの第5段階「青年期」に焦点をあてます。
   青年期の発達課題は「アイデンティティ」の感覚を得ることです。「アイデンティティ」は、「自我同一性」と訳されてきました。中学生頃からのこの時期、自分が何者で、何を志向しどうなっていきたいか、というひとまとまりの自分の感覚を持つことが課題となるわけです。これができない状態を「アイデンティティ拡散」「自我同一性拡散」といいます。
   自分の専門領域を選んでいる大学生や大学院生、研究者の卵たちは、ある程度この段階をクリアしていることが期待されますが、どうでしょうか。研究者として成る自分をイメージし、すでにアイデンティティがしっかりしているようでしたら頼もしいですね。
   でも実際は、それができている人は一部かもしれません。私自身は大学生・・本学医学部です・・になった頃、アイデンティティの感覚を得ていたとは言い難いと告白しましょう。さまざまな環境と思惑の中で医学部に入り、それなりに自分を納得させてはいたものの、それはまだ本当の意味で自分のものではありませんでした。アイデンティティの感覚は、そこからさらに時間をかけて一歩一歩獲得してきたように思います。
   若手研究者も、まだ不確かな自分のまま、研究に一歩を踏み出しているかもしれません。次世代を育成する側は、それが自分の道だと思えるのを助ける、あの先生のようになりたいというロールモデルになるのも、重要な役割のひとつでしょう。
 

第2回(2017年12月)

 こんにちは。ダイバーシティ推進センター非常勤講師の矢吹です。今回はエリクソンによるライフサイクル論8段階の、最初の段階をめぐるお話をしましょう。
 第1段階は乳児期、つまり赤ちゃんの時期です。この時期の発達課題は「基本的信頼」の確立です。養育者・通常はお母さんとの間で、泣いたらおっぱいやミルクを与えられ、不快な排泄物を取り除いてもらい、抱っこしてもらい、この世界は基本的に大丈夫、という安心感を育む時期です。
 小さい頃の母子関係の重要性を思って出産を機にキャリアを離れてしまう女性研究者や、逆に子は持てないと思う若手研究者もいることでしょう。「基本的信頼」は、養育者と自分に対する信頼です。敏感にニーズをくみ取られ、愛情をもって扱ってもらう、安定した関係の中で育まれるものです。しかしこれはお母さんしかできないわけではなく、またずっとお母さんといても、そのお母さんが安定した状態で子どものニーズに敏感に接することができないなら、うまく育まれません。「スマホ育児」ではだめなのです。
 子育ては、夫婦ごとにバリエーションがあるはずです。私自身は子が生後3か月の時に土曜日は夫に任せて精神療法の仕事を少しずつ再開しました。それは、待ってくれていた患者さんのためだけでなく、私の生きがいの仕事をすることであり、子どもと再び向き合うための充電にもなりました。父親にとってもまた、大変ながら子どもとの絆を育む大きな機会となったようです。3か月で始めたのは、何歳になったらもうあとは大丈夫、とはならないことを臨床の経験から知っていたからです。父親や保育園とともに細く長く仕事をしながら育てることを選びました。若手研究者も様々な仕事の仕方が選べたら、継続的な仕事ができるのではないかと想像します。
 

第1回(2017年11月)

 こんにちは。東邦大学ダイバーシティ推進センター非常勤講師の矢吹です。これから次世代育成をめぐって、心理学・心身医学の視点からさまざまなお話をしていきたいと思います。
 「次世代育成」は、研究者にとって大事なテーマですが、実は研究者であるか否か・男性か女性か・子があるかどうか・・・等を越えて、どんな人にも少なからず—おそらく大いに—関係ある事柄なのです。筆者矢吹は、医師として心身医学・心療内科臨床でスタートし、次第に精神療法(心理療法)を専門にするようになりました。その中で、「ライフサイクル」という概念と出会い、そのことを実感するようになりました。
 「ライフサイクル」という言葉は聞いたことがあるのではないでしょうか。医師で精神分析学者のエリック・エリクソンが1950年代に提唱した概念で、日本でも今や当たり前のように使われている用語です。人間は、生まれてから成長し、大人になり、そして老いて死す、という「人生のサイクル」を持っていること、そしてそれは特徴を有する何段階かで構成され、それぞれの段階ごとにクリアすべき「発達課題」がある、という考えです。エリクソン自身が年代を経て考えを変遷させていますが、当初発表された8段階が有名です。
 各段階の詳細は次回にお話しするとしまして、今回は7段階目の「成人期」あるいは「壮年期」等と訳される時期の発達課題が、「次世代育成」と大きく関わっているということをご紹介しておきます。
 次回からしばらく、このライフサイクルからみた次世代育成についてお話ししていきたいと思います。